イラン料理記#1 セロリの煮込み خورشت کرفس

2022年9月18日(日)強雨

 

留学中にホームステイしていたお宅で、おばあちゃんに時々イラン料理の作り方を教えてもらっていました。帰国後も、年に数回は自分のために作っていたのですが、改めて記録を取ることで、自分の人生に入場してきたイラン料理たちをここに定住させたいと思い立ちました。

おばあちゃんに教わったものを基本に、もう一度食べたい料理を作り、それを記録していこうと思います。

 

第一回はセロリの煮込み、ホレシュテ・キャラフス。おばあちゃんに教わった料理の一つです。定番料理であり、日本でも材料を揃えやすい上、作り方も難しくありません。

 

 

材料(2人分)

  • セロリ  1本(約130g前後)
  • イタリアンパセリ  30g
  • ミント  15g
  • 牛肉(煮込み料理用)  120g
  • 玉ねぎ  小1/2個
  • ターメリック  適量
  • トマトペースト  大さじ1/2
  • レモン果汁  適量
  • 塩、胡椒  適量
  • オリーブオイル  適量
  • *1  1カップ
  • 水、湯  適量

 

工程

①米を洗い、塩を加えた水に浸水させておく。

 

②材料をそれぞれ切る。

 セロリは茎と葉の部分に分け、茎は2cm幅、葉は細かく刻む。イタリアンパセリ、ミントは細かく刻む。玉ねぎはあらみじん切りにする。牛肉は一口大よりもやや小さめに切る。

 

③セロリとハーブを炒める。

 フライパンに少量のオリーブオイルとセロリの茎を入れたら火をつけ、弱中火で炒める。色づく必要はなく、油分でコーティングされうっすらと透き通るくらいでOK。そこにセロリの葉とイタリアンパセリ、ミントを加えさらに炒める。水分は飛んでいるがしっとりとした見た目になったら火を止めて置いておく。

 

④玉ねぎと牛肉を炒める。

 鍋にやや多めのオリーブオイルを引き、弱火で玉ねぎを炒める。透き通ってきたらターメリックを加える(今回はティースプーン1/2杯程度を入れた)。牛肉を加えたら火を弱中火まで強めて炒める。

 

⑤煮込む。

 牛肉に半分程度火が通ったら、トマトペースト、②のセロリとハーブを加え、さらにひたひたになる程度まで湯を加える。塩、胡椒、レモン果汁を加えたら弱火にして蓋をずらして被せて1時間ほど煮込む(30分経ったら蓋を完全に被せる)。途中味を見て整える(レモン果汁はけっこう酸っぱいかもと思うくらい入れる)。

 

⑥米を茹でる。

 鍋に湯を沸かし、パスタを茹でる際と同じくらいの塩を入れる。そこに米を入れ、スプーンで数回混ぜる。米が数粒浮いてきたら食べてみて食感がアルデンテぐらいになっていることを確認する。

 

⑦米の湯を切る。

 米を茹でている鍋を火からおろし、湯切りをする。

 ※日本の米に比べて長粒な米を使う場合は、ザルの目に詰まりやすいため注意(我が家は粉ふるいで代用)

 ※⑥で食感を確かめた際に塩辛く感じた場合は、湯切り後に水で米を洗う

 

⑧米を蒸す。

 新しい鍋、もしくは洗った鍋に、底を覆うくらいのオリーブオイルを入れて強中火にかける。十分に温まったら米を投入し、山型に成形し中心に穴を開ける。布巾を巻いた蓋を被せ、鍋底からパチパチという音がしてきたら弱火にし45分〜1時間半ほど蒸す。

 

⑨完成。

 

メモ:家の味と外の味とおばあちゃんの味

これを読んでいる方の中で、イランの家庭の味を知っている人は少ないと思います。イラン料理の経験は、現地のレストランやキャバーブ屋、あるいは日本のイラン料理屋のものではないでしょうか。

(他の国の事情は分かりませんが)現地、日本問わず、イラン料理レストランで出される料理は大体が塩分油分ともに強めな印象です。例えば煮込み料理だと表面一体に油が浮いている、といったような。家庭料理は、レストランに比べると塩や油を使う量は少なくなるものの一般的な日本の家庭料理に比べると多く感じるかもしれません(こと塩分に関しては、日本の料理は塩以外の調味料からも摂取している部分が多いので、印象ほど多くはないかも)。ただ、日本で育った感覚で塩や油を使うと、味に締まりがなくなってしまうので、勇気を出して少し多めに使う方が良さそうです。

わたしがイランに滞在していた当時、一緒に暮らしていたおじいちゃんとおばあちゃんは70歳を超えた高齢で、おばあちゃんの元々の健康志向も相まって、その作る料理は他の家庭よりもよりあっさりとした味でした。そういった事情で、おばあちゃんの味を思い出しながら調理した内容で記録しています。

 

メモ:標高と調理の関係

標高についてメモしておきます。東京は標高約40m、テヘランは約1200m、イマーム・ホメイニー空港に降り立った瞬間に富士山の5合目にいるような計算です。登山をされる方はご存知かもしれません(わたしは「科捜研の女」で知りました)、標高が変わると味覚が変わります。単純に言うと、標高が高くなるほど甘味や塩分が感じられなくなるそうです。イラン料理には塩がたくさん使われる、というのはこういった理由もあるかもしれません。

また、標高は沸点にも影響します。こちらは標高が高くなるほど(気圧が下がるほど)沸点が下がるというものです。例えば米や豆の浸水はテヘランの方が時間がかかるし、スパゲッティを茹でようとするとぐにゃぐにゃになる。これはスキーリゾート地の山上のレストランで食べるパスタと同じです。ペルシア語でレシピを検索すると「米は最低3時間は浸水させる」「最低3、4時間は煮込む」といった情報が出てきます。ここはもう、わたしは感覚でやっています。米は30分程度浸水、煮込み料理に関しては味見をしながら覚える、といった感じで。

 

メモ:アレンジ

今回のホレシュテ・キャラフス作るにあたり、いくつかのレシピを検索して読みました。また、おばあちゃんの元のレシピとも違う部分があるのでそちらを書いておきます。

  • レモン果汁

おばあちゃんのレシピでは熟していない葡萄果汁を使用します(ペルシア語でآبغوره)。果汁の元の、熟していない葡萄の実そのものを使ったバージョンも食べたことがありますが、より酸味にフレッシュさを感じました。酸っぱい葡萄果汁は西洋圏にも存在するらしく、フランス語ではヴェルジュ(緑のジュース?)と呼ぶようです。

  • セロリの他のハーブ

おばあちゃんのレシピではポロネギも使います。代用できそうな下仁田ネギも見つけられなかったので今回は使いませんでした。インターネットのレシピでも使わないものが多いようですが、入れる場合はミントと同量程度が良いように思います。

おばあちゃんは料理に羊を使わない人だったのでいつも使うのは牛肉でした(わたし自身も羊肉が苦手…)。日本のイラン料理屋やイランから輸入されたパウチのレトルトなんかは羊を使っているところが多そうです。鶏肉を使って作っているインターネットレシピもいくつか見つかりました。

  • 米を茹でる際の油

わたしはおばあちゃんに倣って米を茹でる時に油は使いませんが、一般的な炊き方では湯にオイルを加えてお米を茹でます。その方がオイルでコーティングされ、よりスルスルっとお腹に入ってくる気がします(その分味はこってり)。また、蒸す際にも油と湯を混ぜたものを米の山に注ぐ作り方もあるようです。

  • 米のおこげ

イランの米料理はおこげを作るのが一般的です。そしておこげを作れるのが良い妻とされています(男性も料理をする時代、今はどうなんだろう)。米だけでもいいですが、下に厚めにスライスしたじゃがいもや薄いナン(日本では買えないけどラヴァーシュという種類のナン)を敷いて作ってもおいしいです。

  • 米の香り付け

米を蒸す際に、サフランを溶かした湯を少量注ぐと香りが良くなります。色づきが欲しい時にも。

 

おまけ:木べらの話

大きさは小さめで、ヘラの部分が真っ平らではなく浅い楕円のスプーンの形状になっている木べら、イランではよく見ていたのに日本では全然見つかりません。写真のはどれもイランで買ったもので、友人のお父さんに「なんでそんなものをわざわざ?日本にはないのかい?」と言われました。ないんですよねぇ。調理における良いパートナーです。

 

 

食べたら少しお昼寝をして、おじいちゃんが淹れてくれるチャイを飲む、そんな日が懐かしいです。ではまた。

*1:インド産のバスマティ、Kooh-i Noorを使いました。ペルシア語的には「光の山」。イランではイラン産の米が外国産(主にインド、パキスタン産)より味、香りともに優れているとされていて値段も高いようです。品種も色々あるようですが余り詳しくありません。以下のリサーチペーパーにイラン産米の品種について書かれていて勉強になりました。https://core.ac.uk/download/pdf/288447743.pdf