イラン暦1403年アーバーン月
アーバーンは水と清らかさと豊穣の神。穏やかでも荒々しくてもいい、海が見たい。
出かけた場所/食べたもの
上野の森はイランの庭園や公園に似ているなと思いながら通り過ぎる。人と一緒にいるときは、勝手に遠慮してしまい写真を撮るために立ち止まることがなかなかできない。せっかくカメラを持って出かけたのに一枚しか撮らなかった日は木漏れ日が気持ちいい日でもあった。中国茶のお店で各々が選んだ茶葉をおままごとのように淹れながらのんびりと喋りつつ過ごした。小さな茶杯がそれぞれ違う種類で、淹れ合いっこをして三つ並んだ様子がかわいい。
メンバーが入れ替わって夜はカレーの会、わたしと夫、友人とそのパートナーの方と。同じお店を好きで、という理由で集まれるうれしさがある。みなさんご存知だと思いますが、わたしは夫のことが大好きで一緒にいると常にデレデレしてしまう。夫からはよく「家の外でクネクネしないの!」と注意されています。この日は特になぜだか自分のデレさを自覚した(緊張とうれしさがあったからだろうか)。初めてお会いする友人のパートナーの方は、一口食べるごとに小さな声で食べ物の感想を伝え合っている様子が微笑ましくとても素敵だった。知らなかったお店の情報を教えていただいたり、お茶の会の集まりもそうだけれど、この人がこの人らしくあってよいし、同じように自分も自分のままであればよい、と思える安心感と心地よさがある、そんな人たちと出会えたことに思いを馳せる。
・いとこと日本橋
親戚なのにお互い人見知りをして、誘うまでに時間が空いてしまうかわいいいとこと日本橋を散歩した。好きな焼き鳥屋のどんぶりを紹介し、高島屋でやっていた日本橋建築の展示を観て、紹介されていた建築物の一部を訪ねてみる。趣味や好きな時間の過ごし方が似ている人見知同士のわたしたち、また年が明けたら遊びに誘いたい。
・AU BON VIEUX TEMPS
憧れの店内サロンでのイートイン。惣菜やケーキを選ぶところから楽しく、人の家なのに自分で開くパーティーのような気分だった。この日はわたしが行きの運転を担当して、帰りは夫の運転で途中気になっていた広めの公園に寄って小さなピクニックをした。夫とくっついて寝転び、空を眺めながらうとうととした。
・南青山 ANTONIO'S
何年かぶりのアントニオ。バブリーな雰囲気が今だと新鮮に感じる。壁材の質感や腰壁、床のタイル、天井の高さなど、開業当時の豊かさが伝わる。わたしは天然の素材が好きで、塩化ビニル樹脂や合成木材のアンチなので…。などと一方的に話していたらやってきたランチセットのスープがびっくりするほどおいしかった。セットのサラダやスープって大体おまけ扱いで貧相なものだと思っているので。ジェノベーゼもおいしかったけれど、夫が選んでいた渡り蟹のトマトソースの方が好きだったので次はそちらにする。
ぽつぽつと雨が降ったり止んだりする中、青山を散歩し、永平寺別院で雨宿りをしながら、ここに骨を入れられたらという話をした。
・好きなサンドイッチ
パンを選んで作ってもらえるサンドイッチ。中身はローストポーク。ドライトマトの酸味と甘味がおいしい。
・ティーハウスタカノと女三人の会
待ち合わせ時間までひとりタカノ。差し湯の器(茶海ではないですよね)がかわいかった。濃い紅茶が得意ではなく、本当は蒸らし終えた茶を、別の温めたポットに茶葉を濾して入れて提供されるスタイルがうれしいけど、差し湯がもらえるだけ御の字というもの。本物の通はだんだん濃くなりゆく味の変化を楽しむ余裕があるらしい。
このあとに、年下の友人から香港土産をもらった会。オリーブ推しのお店で、普段夫とは食べないような料理をたくさん食べられてうれしい日だった。ちょうどひと世代ずつ離れた女三人、それぞれの夫婦関係を面白く楽しく話し、海外への旅の計画を話したりといつも刺激をもらえる。楽しすぎて写真を何も撮っていなかった。
・栗のお菓子
仙太郎の栗もち、きのね堂の栗スコーン、アンジェリーナの和栗モンブラン、アラボンヌーの和栗のタルト。季節や流行のお菓子を追いかけるのはミーハーだと思っているけど、栗の時期は毎年ついつい同じものを買ってしまう。
・鶏のプラム煮
サトラピの『鶏のプラム煮』を読み映画でも観てから作ってみたかった一品。イランで食べたことはない。プラムが酸っぱく、砂糖を使うので甘くもある、不思議な味の料理。イラン料理の中では珍しくはない味だけれど。
・自炊
福岡限定の茅乃舎のいりこだしをお土産にもらい、付いてきた冊子を見て鶏飯を炊いた。具が入ったごはんはたくさん炊いて冷凍しておくと後々救われる。
タッブーレふうのクスクスのサラダとレンズ豆のサラダは、夫は食べないので一人頬張りながら食べる。
・甘いもの
代官山のヒルサイドパントリーで初めて見かけたプレッツェル、アーモンドのぱりぱりの食感とシナモングレーズの風味が好きだった。
オーボンヴュータンから持ち帰った焼き菓子たち。
読んだもの/聴いたもの
・ジュンパ・ラヒリ『低地』
ラヒリの英語での作品は二冊目、長編は初めて。物語の背景にある、とある時代のインドの歴史について全くの無知だったので、途中途中でWikipediaと睨めっこしながら読み進めることになった。登場する人物の各々の思いが重ならない様子に現実味があり、何度も言っているけれどわたしはラヒリの書く物悲しさにとても惹かれる。インドとアメリカと、それぞれの街の気候や景色が目に浮かぶような描写も良く、ついついその土地を目指して旅をしたくなる。
・Mac De Marco "Salad Days"
先月行ったWaltzでジャケットを見て気になっていて、そのあと配信で聴いてみると、チルな感じが秋晴れのドライブにちょうどよいアルバムだった。
ここだけの話ですが、食べ物の写真や記憶が多いのは、楽しかった記録でもあるし、わたしの場合はストレスを表してもいます。ストレスを解放するために「よりおいしいもの」を求めたり、時間を気にせず好きなときに好きなだけ食べるということをしてしまいがち。食は楽しいものだけれど、決して人生の舵を取らせてはいけないと思います。今年の秋は雨降りの日が多くて気分が塞ぎ、そんな些細なことに苦しむ自分が嫌だった。静かな場所に身を置いて、美しいと思えるものに目を凝らし耳を澄ます、そういった時間の使い方をしたい。小さな苦しさを見過ごさず、それでいて波に乗って全てをやり過ごせるような、そんな日々がいい。みなさんにとっても、心だけはあたたかな冬になりますように。