Mordad 1400

 イラン暦1400年モルダード月8日

床に転がって窓から暮なずむ空を見つめていた。部屋の電気はまだ点けていない。淡い青色だなと思いながら(語感だけで言えば英語のpale blueという音の方がこの空には合っていた)、国外へ向かうフライトを思い出す。夏休みに家族旅行や一人旅で海外へ行くときは、夕方に乗る飛行機が好きだった。一年のうち、たった一週間ほどを異国の地で過ごすことが、どれだけ自分の心を支えていたのかと、こういう状況になって初めて実感する。

自分の身体に見えない垢がこびりついて重たくなっているような気がする。もっと軽く、透明で、淡い青色にわたしはなりたい。

 

ほのかに物悲しい気分とは裏腹に、あるいはその気分を埋めるように、今月はイベントや楽しいことで満ち足りていた。二年前のトスカーナの森を思い出していた。夏、いかがお過ごしですか。

 

食べたもの/作ったもの

・イタリアのチョコレート カルダモン、オレンジピール

シチリアのボナイユートのカルダモンフレーバーのモディカチョコ。 食べたことある方は分かってくれるはず、モディカチョコは特有のジャリジャリとした食感があり、わたしはけっこう好き。イタリアへ旅行へ行ったときも買って帰ったな。オレンジの花のようにカルダモンも大好きです。

あたらしめのブランド、アンジョリーニのオレンジピールのチョコレートは一般的なオランジェットとは異なる丸い形。丸いチョコはなんとなくカジュアルな気分でつまんで食べちゃう。

どちらもc7h8n4o2で店員さんとあれこれ相談しながら買いました。わたしも自分が好きなもののセレクトショップやってみたい…。

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・巴裡 小川軒 エンガディナー

フロランタンやイランのソウハーン、中東のバクラヴァみたいなナッツが入った焼き菓子に目がない。手土産を買いに行った巴裡 小川軒で見かけて買うしかなかった。以前食べた渋谷のミーガンのものはカルダモンが効いていたけど、こちらのは素朴でやさしい甘さの味。

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・シュリシュリでシチリア料理

あとで出てくるボローニャの絵本展で気分が高まってイタリアンへ。青山のドンチッチョの姉妹店らしい。魚介と野菜のフリットがおいしかった。ですがこの日の一番はレモンタルト。メレンゲローズマリーの香りを移しているそう。柑橘とハーブの組み合わせが夏の大好物なのです。

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 ・タコスとかタコライスとか

夏って食欲が落ちるし長い時間コンロの近くにいるのも億劫。タコスとかタコライス、ピビンパとかが作りやすいし食べてもおいしい。自炊をサボり気味だけど、野菜を中心に少しずつお惣菜を並べた食卓に憧れる…。気分が戻ってきたらがんばろう。

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買ったもの

・夏の支度

CLARINSのスティックタイプの日焼け止め。外出用に見た目重視で選んだけど、夏のエキゾチックな香りがして買って正解だった。塗るたびに自分の肌の匂いを嗅いでいる。元々日焼けをあまり気にしない方だけど、去年の冬に元々弱い肌がひどく荒れてしまって、その傷跡を早く治すにはとにかく紫外線対策ですよと皮膚科の先生に言われ、さすがにがんばろうかなと思って。

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このとき試供品でもらったオイルが、カルダモンやヘーゼルナッツ、パセリを使った不思議な香りで、イランの匂いだ〜と思いながらまんまと買っちゃいそうになっている。

 

薄くてコンパクトなTHE PUSHのアルコールスプレーはミントの香り。夏にはAvedaの同じミントの香りのクーリングオイルも使っていて、コンパクトなロールオンタイプだから外出時や旅行のフライトとかでも気分をリフレッシュしたいときに重宝している。

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真夏の盛りに香水をつけるのは重たいなという気分のときには、こういったサブ的なものの香りで十分だなと最近感じている。

 

  

読んだもの/観たもの/聴いたもの

・2021イタリア・ボローニャ国際絵本原画展とイランの絵本展

数年前に知人に連れて行ってもらってから毎年この原画展を観にきている。

院生の頃、T.A.として働いていた大学図書館で「イランの絵本」というテーマで展示をしたり図書館報に記事を書いたことがある。イランの絵本、なかなか面白いんですよ。詩の国らしく古典詩やイスラーム神秘主義詩を使ったものから、ユニークな絵やストーリーの絵本まであったり、すこし前までは作話や再話を現代詩人が担当していた時代もある。

ボローニャのブックフェアのコンクールでも毎年イランのアーティストが何人か入選している。今年も5人の作品が展示されていた。

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関連イベントのイランの絵本展も毎年開催されている。今年の企画は切手。切手も時代時代でイラストの印象が変わるし、なんとなくジャンルごとに分けて展示してあり面白かった。知人にも会って企画の裏話なども聞けたし、夫も意外と楽しんでいたようで(われわれ夫婦は、お互いの趣味はそれぞれ楽しめばいいじゃないかというスタンスで、尊重しつつも無理に相手の領域に付き合わないことにしている)、良い時間が持てた。

原画展で特に気になった作品の絵本が販売されていたので購入した。

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タイトルは『ハト先生と空飛ぶキリンたち』

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ハト先生が傷つき病気になった動物たちを診察しながら、人間が起こしている環境破壊を批判するといった内容

 

原画展と合わせて展示されていたレオ・レオーニの作品も面白かった。わたしが好きだったのはイタリアの製菓会社の広告で、パネトーネやコロンバ、アイスクリームがモチーフだけれど、お菓子そのものの描写がなくても食指が動くような印象があり、淡い色合いのイラストからはバールやパネッテリアに並ぶ甘い焼き菓子が想像できるようだった。

板橋区立美術館は赤塚城址公園の脇にあって、夏はことさら樹々の緑と夏空が目に美しい。

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・アディーブ・コラーム『ダリウスは今日も生きづらい』

去年からずっと読みたかった一冊。イラン出身の母と白人の父を持つ、アメリカ人のダリウスがはじめてイランを訪れるというストーリー。

生きづらさを抱える少年が、イランで本当の自分や居場所を見つけるといったような心あたたまるストーリーではなく、むしろ学校や家でも居場所を見つけられないでいた彼は、イランでも同じようにすんなりと周りに馴染むことは出来ないし、はじめてできた友人とも万事うまくいくわけではない。鬱病との付き合いや見た目にコンプレックスを抱えている描写も妙にリアルだった(著者あとがきでは鬱について書いておきたかったと添えられていた)。

イランでのあるあるや数々の料理・食材の描写、在外イラン人家庭の様子は、もともと知識がある分よけいに楽しめたと思う。特に気に入った部分を引用しておきたい。

 「…正直に言えば、ペルシア人の家庭は、うちみたいに断片ペルシア人家庭でも、うっすらバスマティライスの香りがすると思う」

「生粋の、断片だけじゃないペルシア人はみんなイチジクが好きだ」

「…フェセンジャーンは、一目惚れは難しい料理だ。見かけが、なんていうか、泥みたいなのだ。…ペルシア人以外は、フェセンジャーンに疑いの目を向けがちだ」

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実はヤングアダルトと呼ばれるジャンルの作品が苦手で(苦手というか読むには大人になりすぎてしまったと言った方が正しいかもしれない)、この作品も読み始めてからいわゆるY.A.小説だと気づいたのだけど、その苦手意識があっても十分に面白いと思える作品だった。

 

 

 ・奥彩子・鵜戸聡・中村隆之・福嶋伸洋 編『世界の文学、文学の世界』

昨年からいわゆる「世界文学本」が気になって読んでいる。今月読んだのはいろいろな国や地域から集めた小説、詩、戯曲のアンソロジーで、作品ごとに作家紹介と二つのテーマについての解説・案内が付されている。紹介されている作品は、日本での知名度としては高くないものが多い印象だった(あやまって名作選を想定して手に取ったのでなければ、こういったマイナーとも呼べる言語や作家にアクセスできる良い機会だと、外国語大学出身のわたしは個人的に感じる)。

世界文学というと、国の文化社会背景の知識がないと読み終えるのにとくべつ時間がかかるものもあったりするが、こういった短編、掌編であれば苦なく読みきり、解説へと進めるのが良い。今まで興味を持たなかった国の文学作品を知って、さらに別の作品へと手を伸ばすきっかけにもなる。解説されたテーマの中にはもちろん世界に共通するテーマもある。

わたしはとりわけアルバニアのエルネスト・コリチという作家の「庭」と題した小説に興味をそそられた。以前から文学作品における庭と草花の意味や役割について考えているので。

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・本屋デートと来月の課題図書

 ブログを見返して前回は12月だったのかと振り返りながら、また仲良しの後輩と本屋デートへ。今回は神田の古書街。本屋を回って買い物をしながら、松記鶏飯で海南鶏飯を食べたりティーハウスタカノでお茶したり。好きな人を自分の好きなお店へ案内できる喜びよ(逆に連れて行ってもらった喫茶店も素敵だった。神保町の純喫茶初体験でした)。本や作家の情報を交換できるのも楽しい。今月一やすらぎをもたらしてくれる時間だった。

本の衝動買いをしないよう、事前にTo Readリストを整理して行った。来月はイタリア関連の本を何冊か読むつもり。テーマや国や、あるいはジャンルが揃った本を連続して読むと、隠れた共通項を見出して楽しめたりする。個人的イタリアフェアです。

 

 

・Trey Gruber "Herculean House Of Cards"

今月買った一枚。青い靄につつまれた淡いメランコリーといった感じ。26歳で夭逝した彼の家族や友人が音源を選曲しまとめたものだそう。才能を期待されながらも早くにこの世を去ったという点で、映画『ソフィアの夜明け』で主役をつとめたフリスト・フリストフを思い出した。なんだかあの映画にも似た印象を覚えたような気がする。

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youtu.be

 

 

 

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来月は誕生日なので自分を甘やかしまくる。みなさま、HAVE A SAFE SUMMER!