イラン暦1401年ファルヴァルディン月7日
1401年のノウルーズ、モバーラクです。15世紀の始まりです。毎年毎年冬が好きだ、春の訪れはわたしを憂鬱にさせるなどと言っていますが、今年はなんだか気分が違っていて、春の薫りを乗せた風が頬に触れるのを感じては何でも出来そうな気持ちになっています。
広い家に集まって料理を作ってチルして、週末には車でただただ広い大地を駆け抜けて草原に腰を下ろして、街中にはきちんと成長する樹々があって木陰から漏れた日が家の中に入ってきて、茶を飲んで喋って本を読む あるアカウントが載せた1400年の記録🇮🇷を見てこれが幸せなんだと思った
— meigu (@mkrn829) 2022年3月18日
大阪滞在
恩師の退官記念講義を聴きに大阪へ行った。大阪へ行くのは何年ぶりだろうか、五年は経っている気がする。夫も連れて一泊二日の小旅行とした。実は母校のキャンパスが移転したばかりで、初めて訪れた新キャンパスではもちろん懐かしさを感じることはなく、目の前にはない旧キャンパスを思い出すばかりだった。
講義の感想をここに書くことはしないけれど、久しぶりに会う先輩後輩知人たちと話せたのが何よりの土産になったように思う。連絡先も分からなくなっていた子たちと、また会おうねと約束をした。タアロフで終わらせないぞ。帰り道に友人たちと歩きながら「ペルシア語関係の友達といる時が一番落ち着くんだよね」と言ったのは確かに本音だった。なんでだろうね。恩師は一生の憧れだと思う。翻訳のプロジェクトがあるのなら、雑用でもいいので呼んでくださいとお願いしたりした。
こちらの甘酸っぱい感傷は置いてきぼりで、街は変わっていたりいなかったりしながら日々を受け止めていると思った。えんじ色のシートの阪急電車にも乗った。阪急梅田駅で夫が見送ってくれた姿が見慣れなくて不思議で愛おしかった。
夫と一緒に過ごした時間は僅かだったのだけど、おいしいものはたくさん食べた。
・宿の近くの蕎麦屋で鴨南蛮
色が〜〜〜薄い出汁〜〜〜と泣きながら啜る。
・割烹
冗談抜きで1mを超える長さがありそうな献立で出迎えられた。夫婦ともに苦手な食材が少なくないので、コース一本のお店より、好き勝手に注文出来るお店が好きだ。
加賀蓮根。石川の食材を見つけると夫が勧めてくれる。そういうところが好きだよ。
肉厚の鮑の酢の物。この日はよく出ているようで、途中で品切れになっていた。めちゃくちゃおいしかったから、食べられてラッキーだった。
蟹の炊き込みご飯。余ったらおむすびにして持ち帰らせてもらおうと思っていたのに、二杯ずつぺろりと食べた。入籍前の家族顔合わせの席で、最後に出た蟹飯を食べきれなかったのが夫にはだいぶ心残りだったようで、何度もその話をしているから、この日は満足行くまで食べて幸せそうだった。
カウンターには野菜の集団がいてかっこよかった。これがちょうど板前さんとの間にあることであまり緊張せず食事することが出来た。
・大阪中之島美術館
今年二月に開館したばかりの美術館へ、タイミングも良いしと行ってみた。事前予約していたし、こんな状況だからてっきりそれなりに入場制限しているのかと思ったら、結構な混雑で正直に言うとがっかりした。ここ十年くらい国内の美術館から足が遠のいているのは、混雑した中で鑑賞したくないことが理由の一つで。展示自体が良くても人混みにいると疲れてしまって集中出来ない。有給を取って平日に行くのがいいのかなぁと改めて考えたりした。
その日鑑賞した超コレクション展では、絵画も写真も工芸品も、どのジャンルでも印象に残るものがいくつもあったし、旅行中の美術館というのは良い思い出になったと思う。特に好きな鴨居玲の作品が見られたのは予想外でとてもうれしかったし、写真の石崎光瑤の『白孔雀』に特に心惹かれた。ぼんやりと見つめていると我が家の白猫の胸毛を思い出したりもした。
・串カツとたこ焼きとアメリカ村と
ジャンクなものも食べに行った。夫が目に見えて楽しそうだった。あの猥雑な空気の中食べるのは純粋に楽しいね。串カツが回転寿司式にレールで運ばれてきたのも面白かった。
・憧れていたお店で買い物
二年前に雑誌で知って、それからInstagramで追いかけていたPORTへ行った。ヴィンテージの家具とアパレルを扱っているお店で、実際のお店は想像していたよりもさらにハイセンスだった。ずっとここにいたいと思ってしまった。ちょうどCristaseyaの新しいエディションで陶器の取り扱いを始めたところだったのをInstagramで知って、結婚記念日の記念品に買おうと思って訪れたのだった。お店にあるもの全部がツボで、あれこれと見て色々持ち帰ることにした。
Cristaseya, Edition#18, Teracotta.
小さなボウル、絵柄は十五、十六世紀頃のドローイングをモチーフにしているらしい。結婚5周年の記念品です。
ヴィンテージのLevi's 701、スチューデントライン。40年くらいは経っていそう、表記のサイズよりもかなり縮んでいて履いてみたらジャストサイズだったこともあり、感激して買ってしまった。出会い方で心を動かされがちの人生だ。本当は今年はRE/DONEのデニムを買おうかなと思っていたのだけど、この一本がかなり気に入って、この日から「Levi's vintage 701 student」と延々と色んなサイトで次なる一本を探し回っている。
東ドイツの手吹きガラスのフラワーベース。他にも色や形が違うものがあって、悩んでこちらに。繊細なガラスに夫は不安そうだったけど(手に入れたものが汚れたり破損すると凹むタイプなので)、このチェストに色と高さのあるものが欲しかったわたしは大満足。
勝手な偏見かもしれないけれど、ヴィンテージショップって取り扱う商品が偏りがちで、北欧でまとまっていたり、アメリカミッドセンチュリー、ジャンク、とジャンルで分かりやすく別れているように思っている。そこから掘り出す楽しさはあるのかもしれないけど、わたしは国や地域、年代関係なく好きなものを集めてその集合になんとなくまとまりがある空間というのを目指していて、そういう意味でもこちらは理想の空間だった。お洋服も全部素敵でね、とても刺激を受けました。また関西の方へ行ったら寄りたいなと思う。
ノウルーズ前後の三連休
ノウルーズは大体春分にあたるころで、日本では今年は三連休だったので活動的に過ごしてみた。
・一日目 小伝馬町へ
今年はノウルーズ料理を作るぞと決めていたので、かなり久しぶりに小伝馬町のイラン食材店、ダルヴィッシュショップへ。店内には店主の他に三人男性が集まってペルシア語で何かについて談義しているようだった。今回使う乾燥ハーブミックスと、次回作りたい料理用に柘榴のペーストを買う。お会計中にデーツをいただく。ドライじゃない、柔らかいやつ。冷凍でバルバリーという種類のナンを見かけたので、次回買ってみたい。イラン式朝ごはんが食べたいのだ。
すぐ近くに気になっていたovgo Bakerがあったので、そちらでクッキー、マフィン、スコッキーを買う。お店がある江戸通りは辛夷並木があって、風でゆらゆらと揺れる花が小鳥のようで愛らしかった。毎年この時期に白木蓮と辛夷の区別が分からなくなって画像検索している気がする。花は好きなんだけど詳しくはない。祖父のように野草や野花にも詳しくなりたいものです。
・二日目 ファラーフェルと代々木公園
同僚とエスニック料理を食べに付き合ってもらう約束をしていた。仕事関係で知り合って休日にも会うような仲の人はほとんどいないのだけど、彼はそのうちの一人で話しやすい。いくつか提案してファラーフェルが選ばれた。渋谷パルコのファラフェルブラザーズで食事した後はお茶を買って代々木公園まで散歩をした。前日に買った焼き菓子を食べながらドッグランの犬たちを見てたいへん癒された。最近はもっぱら東京は景観がいまいちだよ、緑が少ないよ、ということを夫に話し続けている。この日もそれに近しい話をした。どこもかしこも丸の内仲通りや金沢の長町武家屋敷跡みたいになればいいのでは、などと乱暴な考えを巡らせてみたりもするけど、わたしはイランの街の雰囲気が好きなので結局あちらに住まない限りは満足しないのだろうなとも思う。とにかく緑が去勢されず、自由に背伸びして、木陰を作って、そんな様子がどこでも目に入る街や家で生活をしたい。
そういえばこの日、出版されたばかりの復刊版『ペルシア文芸思潮』を買った。イラン文学史については、つぎはぎの知識しかなくて自信が持てないので、この本が手元に来て安心する。何度も読みたいと思う。この鮮やかなピンクの装丁に「文芸思潮」の文字が並ぶ格好良さよ。
・三日目 イラン料理を作る
ノウルーズ料理といえば、サブズィー・ポロウとマーヒー(ハーブごはんと魚)です。魚は白身魚や鮭をサフラン風味で味つけて揚げ焼きやキャバーブするもの、ツナ缶そのまま、などと色んなバリエーションがあって、わたしはツナ缶と食べるのが好きなので今年は張り切ってツナそのものを自作してみた。ごはんを炊くのも、改めてイランのおばあちゃんに教えてもらった時のメモを引っ張り出して、各工程を丁寧にするとうまくいった気がする。成功のコツは余裕だ。
あとは超簡単なシーラーズサラダを。調理プロセスを写真に収めたのでここに記録する。
ハーブごはんはディルやコリアンダー、パセリが入っている。多めに作ったのでこの日の夜はクークー・サブズィーも作って二度食べた。こちらはハーブオムレツ。乾燥ハーブミックスは、ポロウ用、クークー用、ホレシュト(煮込み)用と分かれていて、微妙に中身が違う。クークー用にはポロネギが入っている。
この日はこんな食事だったから、体からハーブが生えてもおかしくないななどと考えていた。あと、夜に余ったツナで蒸したジャガイモと温サラダを作った。先月イル・タンブレッロで食べたのを再現してみた。味付けはツナのオイルとレモン果汁とイタリアンハーブ、ケーパー。大変うまく出来ました。
・おまけ イラン研究会
毎年ノウルーズ後の土日はイラン研究会が開催される。今年もオンラインで一部だけ参加させてもらった。興味深い発表あり、みなさんの近況報告に頷いたり笑ったり、昔の写真が登場して驚いたりと今年も良い時間であった。最後に紹介されていた音楽が良かったので載せようと思う。イラン現代詩に曲を付けて女性歌手が歌ったもの。このパリー・ザンギャネという人をわたしは知らなかったのだけど、後天的盲目だったらしい。
結婚記念日
今年もいつものレストランへ。夫と過ごす結婚記念日を積み重ねているから、この春の始まりの季節が好きになれそうなのかもしれない。たくさんの色、形、感触、ひとつひとつに反応する感性をなくさずにいたいな、二人で。
日照時間が長くなって来て気持ちは少し上向き、ですが花粉の飛散が始まって種々のアレルギー症状で苦しんでもいる。飲み始めたピルも辛くて、一週目は悪心、二週目三週目はPMSのようなもの(生理不順でしばらくPMSを忘れていた)、休薬期間が空けて再度悪心、のループ。体調とメンタルと捻れながら一緒に悪化しやすいので、体調を整えつつ気持ちに余裕が持てるよう、ご自愛するのだ、と今月も思っておりました。そして数ヶ月ぶりのカウンセリングにも行った。落ち込みが続いていたので、話をすることで自分自身が頭の整理が出来て良かった。こんな話をして、すっきりしたよ、と帰って夫に報告すると、「そうでしょ、オミにはそろそろカウンセリングが必要な頃だと思ってたよ」と言われた。もちろん心配もしているだろうけど、こうやって腫れ物に触るような扱いはせずに、入れ込み過ぎずに側にいてくれることがありがたい。疾患の有無や自覚の有無も関係なく、もっとカウンセリングが一般に利用されるようになるといいなと思う(保険診療ではないので費用は安くはないけれど)。もちろんアドバイスをもらえるのも利点だけれど、口に出して話すこと、言葉を紡ぐこと、そういった自分の動きが停滞を解消してくれる気がする。愚痴を聞いてくれる家族や友人がいたとしても、彼らは専門家ではないし簡単に心が引きずられることもある。それを防ぐためにもアクセスしやすいものであって欲しいなと、カウンセリングに通い出してからよく考える。
ノウルーズ当日のぺっちゃんはいつにも増してくっつき虫でした。
四月はいつもより遠出するつもりでいる。進んで緑の中に入っていきたい。桜以外の花も愛でてね。みなさんのカメラロールも花で溢れますように。