Khordad 1402

 イラン暦1402年ホルダード月18日

 

風呂上がり、ベランダにPCを持ち出してブログを書いています。雨が降り出すまでと思っていたけど、少し前から降っていたみたい。梅雨時期、ご自愛を捗らせるべき季節の到来。せめて家の中にいるときは、少しくらい雨を愛でてみてもいいのではないでしょうか。

 

帰省と温泉

去年も両親と温泉へ行ったけれど、今年は父の古希祝いで県内の温泉宿へ。山中温泉へ行くのは初めてだった。高速道路を使うと途中の美川町(統合でもう存在しないとか)の辺りで見える日本海や、高速を下りてすぐに現れる柴山潟に新鮮に感動した。石川県は、自分にとっては訪れて楽しく過ごせそうな場所がたくさんあるので、もし住んでいたとしても、休日に何をするか困らないと思う。

 

泊まった宿のすぐ後ろに大聖寺川が流れていて、この辺りは鶴仙渓というらしい。部屋の庭で読書していても川の流れと鳥の囀りが聴こえてきて心地よかった。両親の色々なリクエストのために宿選びにはかなり苦戦したけど、結果とても素敵な場所を見つけられ、夫ともまた来たいねと言い合えて良い滞在となった。

旅館の朝食が大好き


実家の方では、到着した日、庭の躑躅が満開だった。東京では咲き終わりの頃だったから、こんな時差に妙に感心してしまった。数日後にはすっかり花を落として、地面が花の絨毯のようになっていた。

紫蘭も。あちこちで見かけるけど、実家の庭のあまり日の当たらない場所で咲いている姿が愛おしいなと思う。

 

雨が降る日、大樋焼美術館に行ってきた。九谷焼の華々しさとは正反対の、地味な色合いの焼き物だけど、ひとつひとつじっくり見ると形や色の微妙な変化が面白く思った。初代から当代までの作の茶碗が並んで展示されているので、その違いを鑑賞するのも楽しい。

と言いつつ、いちばんの目的は東山の吉はしの上生菓子をいただくことだった。美術館内でいただくだけあって、大樋焼の器で提供される。茶碗はいくつかあるうちから選ぶことができて、確かわたしが選んだこの写真の茶碗は二代目の作だったと思う。菓子の名前は「水柳」だった。

 

夫と金沢で過ごした日は、近代文学館で泉鏡花関連の企画展を鑑賞して、去年の夏にも訪れたビストロでランチをした。食材の組み合わせが、自分では思いつかないどころか、自分が行ったことのあるレストランの中では見たことのないものばかりで、驚きつつ味わいつつ、今回もとても好きだなと思えた。一年経つのに去年来たことも覚えていてくださった。季節ごとに行きたいなぁ。

 

その後はわれわれの秘密基地こと大和のちとせ珈琲で。

 

あとは夫が気に入っている牧場のソフトクリームを食べに。牛や山羊やうさぎとも触れ合える。

牧場の後にいつも行く並木路で、風を感じて葉擦れを聴いた。背の高い木のてっぺんで葉が風に揺れているのを見て、風がわたしたちも連れ去ってしまえばいいと思う。

 

そう、この滞在中に能登で大きな地震が起きて、金沢近辺も揺れて怖かった。その後も小さな地震含めて続いていて、これ以上災害が起こらないでほしいとずっと祈っている。



読んだもの/聴いたもの

室生犀星『陶古の女人』

三月に犀星記念館で買って帰った本を読み終えた。ミュージムショップに、古書店が間借りというのだろうか、委託の形で古書を置いているのを初めて見かけた。内容は犀星の自伝的な作品を含む短篇集で、内容に全く共感できない話もあったけれど、わたしは犀星の作品は詩ばかりを知っていて、小説は一つ二つしか読んだことがないから、こんなふうに小説を書くひとなんだという感想が最初に出てきた。話の流れというよりも、ものを見つめる視点や視線に惹かれた気がする。

ところで、本自体にもとても魅力を感じて買ったわけなのだけど、扉の和紙の質感や、奥付の手貼りの著者検印にしみじみと見入った。あと、表紙の唐加彩俑の顔から目が離せなくなり、連れて帰りたいと直感的に思ったというのもある。

 

T・S・エリオット『荒地』

「四月は残酷な月」で始まる詩を四月から少しずつ読んでいた。いろんな読み方があると思うけど、わたしはあまり詩句の意味やそれが参照する古典については考えすぎず、感覚で鑑賞しているように思う。とはいえ古典の引用についての著者自身による注は読んでいるが。

 

・&Premium 2023年5月号

5月号といえど二ヶ月も前に発行されている。なんだか急にふと思いつき、広告以外の部分の文章を一文も残さず読む、ということをしてみた。近頃は本当にわれながらインスタントな刺激と喜びにしか反応できなくなってきている気がして、雑誌を読んでも写真と、気になった商品のクレジットしか見ていない有様で。そんな態度を変えたくて取ったアクションだった。読んでみると普通に面白いし、たったひと月の間にこれだけの文章が書かれるのに、一体どれだけの人数が関わっているのかと思うと勝手に果てしない気持ちになるなどした。

 

・アリー・アッバースィー『聖地には蜘蛛が巣を張る』

日本公開前から楽しみにしていたのに、気づいたら都内での公開終了間近となっていて慌てて映画館に駆け込んだ。映画の邦題問題をわたしはずっと主張しているけど、特にイラン映画の場合はよく考える。舞台が聖地であることは確かに重要なのだけど、原題の"Holy"は蜘蛛自身を修飾しているのであって、蜘蛛と呼ばれた犯人(と行いに理解を示す人たち)が、自身やその行いを「聖なる」ものと考えているのではないだろうか。その一語こそが事件が起こった社会の問題点を示しているようにわたしには思えた。

殺害のシーンなど、かなり露悪的な表現があって観るひとを選びそうではあるけど(わたし自身も、残忍な表現や不安と悲しみを煽られるのが苦手な夫を連れて行かなくて良かったと心の底から思った)、イランにおけるミソジニーにも焦点があたっていて、強く後を引く作品だった。

 

買ったもの

最近買っていたものをまとめて記録。

・seya.のshahnameh dress

shahnamehは王書、イランの叙事詩。ブランドの23ssのテーマがBOSPORUSで、トルコと王書でどういった関係があるのかはわからない(説明も書かれていない)けど、ネーミングと生地の質感、デザインで直感的に欲しいと思ってしまった。seya.の服はいつか手にしてみたいと思っていたので、ある意味運命的な機会だったのかもしれない。

 

・RE/DONEのスタッズクロッグ

2023年のウィッシュリストに入れていたもの。去年アメリカへ行ったときに買えば良かったのに踏ん切りがつかず、ずるずると今まで思いを引きずっていた。強そうなデザインだけど、足が小さいので、その小ささと合わせると小動物が虚勢をはっているようでなんだかかわいく思う。たくさん履く。

 

・Sea New Yorkのスカート

写真だといまいちかわいさが伝わらなくて悔しい。ウエストにギャザーがたっぷり入っていてかわいい。季節問わず着れて合わせやすそうで本当に買って良かった。生地がペラペラじゃなくしっかりしていて、でも分厚かったりかさばったりするわけでもない絶妙な感じ。ちなみに色のネーミングが"egg shell"で、そんなところにもグッと来てしまう自分。

 

 

 

 

 

 

最近はめっきり温度湿度の変化で体調を崩しがちになっています。みなさんはお元気でしょうか。夏の盛りに向けてタオルケットを引っ張り出してきて、まずは自分が包まって安心感を得てもいいと思うこの頃です。それも平日の昼間にね。あたたかいお茶を飲んで、本を眺めて、ご自愛しましょうね。では。